「働き方改革」の本来の目的とは?

現在、多くの企業が「働き方改革」に取り組んでいます。IT機器やオフィス機器を導入して職場環境を整備することで改革に取り組む企業もあれば、業務改善や社員の意識改革、会社の風土改革を図ることで行動やマインド面から「働き方改革」へのアプローチを試みる企業もあります。また、就業規則や労働契約を見直し、法令遵守を徹底するなど、制度やルールという観点から「働き方改革」を捉えている企業もあります。

 しかし、そうした取り組みが企業の経営にとって本当に役立つものになっているかを考える必要があります。なぜなら、「働き方改革」の目的とは、社員のためだけでなく企業の業績アップを図ることでもあるからです。「働き方改革」という言葉だけは本当によく耳にするようになりましたが、具体的に何をすることなのか、何のために行うべきものなのか(目的)を正しく理解している企業は少ないように思います。

 ところで、当事務所では「働き方改革」を以下のような10のテーマに分類して、様々なサービスのご提供をしております。

・多様な働き方の整備
・非正規社員の待遇改善
・女性の活躍推進
・高齢者の就業支援
・若者の雇用促進
・育児と仕事の両立支援
・介護と仕事の両立支援 
・長時間労働の是正
・ハラスメント対策
・人材開発・キャリア支援

 ここで重要なことは、これらのテーマはそれぞれが独立して存在しているのではなく、相互に関連し合っているということです。したがって、「働き方改革」を考えるにあたっては、これらのテーマを体系的・構造的に捉える必要があるのです。

 企業というのは利益を追求するだけでなく、社会的な責任も負っています。まずは「法令の遵守」が求められます。次に、「安全に配慮」する義務です。さらに、社員一人ひとりの「キャリアを支援」する責任もあります。

 これまでの「キャリア支援」とは、主に正社員を対象にするものと考えられてきました。しかし、時代も変わり、今では働き方も多様になりました。たとえば、正社員と非正規社員(パート社員や契約社員など)の比率が6対4という会社は珍しくありません。そうした場合、正社員だけを手厚く支援するというのは時代に即した施策とは言えません。「社員を大切にしている会社」という評価も得られなくなります。

 そこで、「多様な働き方」ができる社員区分(限定正社員制度など)を整備するとともに、非正規社員へのキャリア支援も図らなければならなくなったのです。

 さらに、かつてのように仕事のために私生活を犠牲にして会社に忠誠を誓うような、いわゆる「滅私奉公」といった働き方も今の時代にはそぐわなくなりました。「ワークライフバランス」という言葉が示す通り、仕事とそれ以外のプライベートの時間を優先させることが、よりよい人生を送るために必要な価値観となっています。

 それに合わせて、企業も働く人が家庭人として十分に活躍できるような支援をすることが求められています。子育て中の父母に対する「育児と仕事の両立支援」、あるいは高齢の家族を介護している社員に対する「介護と仕事の両立支援」です。

 このように、働く人、そして働き方は以前に比べて驚くほど多様になっています。それに応じて、企業がそれぞれの人に適したキャリアの支援を行う、というのは「働き方改革」の基本的な考え方です。

 「法令を遵守」し、「安全に配慮」するという前提に立った上で、多様な働き方に合わせた「キャリア支援」を行うことで、「社員が働きやすく働きがいのある職場」が実現します。そうした職場ができあがると、社員の仕事に対するモチベーションが高くなると同時に、生産性向上や業績アップにつながるということが、「働き方改革」の本来の目的なのです。ですから、「働き方改革」を企業の人材活用戦略と位置づけて、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと考えています。


「働き方改革」とは「SDGS」である!

最近では、「働き方改革」よりも「SDGs」という言葉を耳にする機会が増えました。ところで、「働き方改革」と「SDGs」とはどのような関係があるのでしょうか?

 日本では2016年5月20日に「SDGs推進本部」の設置が閣議決定されました。そして、2016年12月に「SDGs実施指針」が策定されました。これは全省庁の既存の政策をSDGs17ゴールと169ターゲットに照らし合わせて棚卸をし、8つの優先課題と具体的施策に紐づけたもので、日本におけるSDGsの国家戦略とも言えるものです。

<政府の「SDGs実施指針」8つの優先課題>
①あらゆる人々の活躍の推進(ゴール1、4、5、8、10、12)
②健康・長寿の達成(ゴール2、3)
③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション(ゴール2、8、9、11)
④持続可能で強靭な国土と質の高いインフラ整備(ゴール2、6、9、11)
⑤省エネ、再エネ、気候変動対策、環境型社会(ゴール7、12、13)
⑥生物耐用性、森林・海洋等の環境保全(ゴール2、3、14、15)
⑦平和と安全・安心社会の実現(ゴール16)
⑧SDGsの実施推進の体制と手段(ゴール17)

ここで注目をしていただきたいことは、8つの優先課題のトップに「あらゆる人々の活躍の推進」が掲げられていることです。さらに内容を細かく見て行きますと、以下のような施策が示されています。

・一億総活躍社会の実現:働き方改革
・長時間労働の是正
・若年者雇用対策の推進
・女性活躍、男女共同参画の推進
・キャリア教育、職業教育の充実

つまり、政府としてSDGsの実現のために最重要課題として掲げているのが「一億総活躍社会の実現=働き方改革」ということです。別の言い方をすると、「働き方改革」を推進することによって、「SDGs」が実現できるということになります。

ディーセントワークとは?

ディーセントワーク( Decent work=働きがいのある人間らしい仕事)は、2009年に国際労働機関(ILO)総会において21世紀のILOの目標として提案され支持されました。Decent(英語)には、「きちんとした」「まともな」「適正な」といった意味があります。ですから、ディーセントワークとは、「人間らしい生活を継続的に営める人間らしい労働条件」ということになります。
直接的な労働条件としては、労働時間、賃金、休日の日数、労働の内容などが人間の尊厳と健康を損なうものでなく、人間らしい生活を持続的に営めることが求められます。さらに、それを保障する労働条件として、結社の自由・団体交渉権・失業保険・十分な雇用・雇用差別の廃止・最低賃金などが確保されていることが求められます。
SDGsのゴール8には、持続可能な経済成長の一環としてディーセントワークの促進が掲げられています。また、厚生労働省では、以下のように定義をしています。

・働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
・労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
・家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・公的年金などのセーフティーネットが確保され、自己の鍛錬もできること
・公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

サステナブル人事制度の導入

 中小企業が持続可能な経営(ディーセントワークの推進)を行うためには、「法令順守」「安全配慮」「キャリア支援」をバランス良く提供し、社員にとって「働きやすく働きがいのある職場環境」を整備する必要があります。そのために導入が求められるのが、「サステナブル人事制度」です。具体的には、以下の法改正等への対応ができる賃金制度・人事制度の導入を検討しなければなりません。

(1)同一労働同一賃金への対応
2021年4月より、中小企業においても「同一労働同一賃金」への対応が求められるようになりました。これは、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
企業の対応としては、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取組を通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにしなければなりません。

(2)高齢者の就業支援(70歳までの就業支援)
2021年4月より、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が改正され、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、企業には次のいずれかの措置を講ずる努力義務が課されることとなりました。
・定年を70歳まで引き上げる。
・定年制の廃止。
・70歳までの継続雇用制度の導入。
・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入。
・70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入。

(3)育児・介護と仕事の両立支援
育児又は家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう支援することを目的として育児・介護休業法が定められています。企業としては、育児・介護と仕事が両立できるように、短時間勤務やテレワークなどの「多様な働き方」ができるような制度(社員区分、労働条件、賃金制度など)の導入が求められます。

(4)ハラスメント対策
2020年6月1日より、改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)が施行され、企業は職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上、必要な措置を講じることが義務となりました。中小企業においても、2022年4月より実施されます。

コンサルティングサービスのご案内

 当事務所では、サステナブル人事制度を導入するためのコンサルティングサービスをご提供しております。助成金制度を活用することによって、中小企業でもコストをかけずに制度の導入をすることが可能になります。現状分析(簡易版)は無料で承っておりますので、ぜひお気軽にご相談下さい。

<ジョブ型賃金制度導入コンサルティングの内容>
 ①現状分析と課題の明確化
 ②制度見直しの方向性検討
 ③職務分析
 ④職務評価
 ⑤職務ポイントによる格付け
 ⑥賃金レンジ設計
 ⑦業績評価方法の検討
 ⑧移行処理
 ⑨社員への説明
 ⑩制度の運用

<助成金を活用した定年延長(廃止)コンサルティングの内容>
 ①現状分析と課題の明確化
 ②制度見直しの方向性検討
 ③60歳以降の職務設計
 ④60歳以降の賃金制度見直し
 ⑤現役世代の賃金制度見直し
 ⑥退職金制度の見直し
 ⑦就業規則の改定
 ⑧助成金の申請

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